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福岡高等裁判所 昭和36年(ネ)924号 判決 1964年5月19日

理由

一  被控訴人の第一次請求について。

(一)  被控訴人主張の(1)ないし(7)の各為替手形を、控訴人が自己を受取人とし、訴外篠崎誠太郎あてに振出し、振出当日同人がこれを引受けた上、控訴人がこれら為替手形を被控訴人に裏書譲渡したことは当事者間に争いがない。

(二)  控訴人は、本件為替手形振出、裏書譲渡の原因関係が存在しないと主張するので判断する。

(証拠)を合わせ考えると、訴外篠崎誠太郎は、一〇数名の者から金員を借用し、昭和三〇年以前から、自分が勤務している博陽企業組合の組合員である博多織業者らに対し、金員を貸与する傍ら、自己の原糸買入資金にも充てていたところ、懇意の間柄であつた控訴人に対しても、金員の借用方を申込み、控訴人は他から融通を受けて篠崎に貸付けていたが、被控訴人も控訴人の依頼により、期限を六〇日後利息日歩一三銭の約で控訴人に対して金員を出した一人であり、約定のとおりの金利を付して控訴人は被控訴人に右の金員を支払つてきたこと、そして被控訴人の出した金は被控訴人から控訴人へ、さらに控訴人から篠崎へと授受され、篠崎はこれを控訴人から貸与されたものとして、同人の自宅で受け取り、それに対する利息も控訴人に支払つてきたこと、被控訴人と篠崎とは全然未知の間柄で、現在まで面接したことすらなく、したがつて被控訴人が出した金に関して、両者間になんらの話合いもなされたことがなく、篠崎が破綻し財産整理が行われた際、控訴人はその債権者として債権の請求をしたが、被控訴人はなんら債権者としての届出でなどをしなかつたし、被控訴人が控訴人に交付した金銭について、被控訴人と篠崎間になんら決済がなされたことがないこと。右のように認められる。前示証言、控訴本人尋問の結果、当審証人安武伊三の証言のうち、右認定に反する部分は採用できないし、乙第一号証ないし第一六号証の各一、二をもつては、右認定を左右することはできず、他に反証はない。そして右認定によると被控訴人は控訴人に対し利息日歩一三銭の約で金員を貸与したと解するのが相当で、被控訴人を出資者とし篠崎を営業者とする匿名組合が両名間に成立し、控訴人はたんに被控訴人から篠崎への出資金の交付を仲介したに過ぎないとの控訴人の抗弁は理由がなく、さらに前示各証拠資料によると、被控訴人は昭和三〇年頃から控訴人に対し、前認定の金員を貸与してきたのであるが控訴人はこの借用金の支払を確保するため、自己を受取人、篠崎を支払人とする甲第一号証ないし第三号証、第四号証ないし第七号証の各一と同様な為替手形を振出し、篠崎の引受けを得て、被裏書人らんを白地とし、これを被控訴人に裏書譲渡するの方法をとつてきたこと、右甲第一号証ないし第三号証、第四号証ないし第七号証の各一の為替手形は、それぞれこの手形に対応する書換え前の手形が満期に支払われなかつたので、約定の日歩一三銭の割合による利息の支払いを済ませて、各未払いのみの貸金元金に、各手形振出日からその満期日まで六〇日分の日歩一三銭の割合による利息を加算した金額を手形金額として書換えられた手形であることが認められる。これを具体的にいえば、被控訴人主張の(1)(2)(3)(5)の各手形金額一〇七、八〇〇円のうち、金一〇万円が元金で、金七、八〇〇円は各振出日から各満期まで六〇日分の日歩一三銭の割合による利息であり、同(4)(6)(7)の各手形金額二一五、六〇〇円のうち、金二〇万円が元本で、金一五、六〇〇円は前同様の利息である。すなわち、右各手形の振出日に、各手形の満期を弁済期とする右各認定の元金が、利息日歩一三銭の約で、被控訴人から控訴人に貸付られたという形式をとつたのである。従つて被控訴人と控訴人間に、本件手形授受に関する原因関係が存在しない旨の控訴人の抗弁は理由がない。

(2) もつとも右各手形の主たる義務者は引受人である篠崎であり、控訴人は同手形の受取人としてこれを被控訴人に裏書譲渡し、これにより被控訴人は前示のとおり控訴人に金員を貸付けたのであるが当事者弁論の全趣旨によると、右手形の裏書譲渡は消費貸借との併存を許さないいわゆる手形の割引きではなく、貸金の支払いを確保するために、篠崎の引受けた手形を被控訴人において控訴人から裏書譲渡を受けたものであり、前示認定によれば、被控訴人はもつぱら控訴人を信用し、その資力に信頼して、控訴人に金員を貸付けたことが推認される以上、控訴人から被控訴人に対し前示為替手形以外に借用証書などの消費貸借を証する証書を差入れたことがない(このことは前示証言、控訴本人尋問の結果によつて明らかである)としても、右が消費貸借であると認定することを妨げるものではない。

(三)  被控訴人主張の(1)(2)(3)の為替手形は、甲第一号証ないし第三号証によれば、支払い呈示期間内に支払いのため、支払い場所に呈示されず、従つて支払拒絶証書が作成されていないことが明白であるから、右三通の手形はその裏書人である控訴人に対するそ及の要件を欠くので、この三通の手形に基づく被控訴人の第一次の請求は理由がない。

被控訴人主張の(4)ないし(7)の四通の為替手形は、甲第四号証ないし第七号証の各一、二によれば、各その手形の満期及びその各翌日に支払いのため、支払い場所に呈示され(甲第四号証の一の符箋に、昭和三三年五月一六日とあるのは、昭和三三年六月一六日の誤記であることは、甲第四号証の一の手形に押してある支払場所安田信託銀行福岡支店の日付印に徴し明らかである。)たが、支払いを拒絶され、各満期の翌日拒絶証書が作成されていることが明らかであるから、右四通の手形は控訴人に対するそ及の要件を具備しているものというべきである。

よつてそ及金額について考えるに、右(4)(6)(7)の各手形金額二一五、六〇〇円中二〇万円が元金で、金一五、六〇〇円は、右各手形の振出日から満期まで六〇日分、日歩一三銭の割合による利息であり、(5)の手形金額一〇七、八〇〇円中、一〇万円が元金で、金七、八〇〇円は振出日から満期まで六〇日分、日歩一三銭の割合による利息であることは、先に説示したとおりであるから、これに利息制限法を適用して計算すれば、(4)(6)(7)の各手形の利息はいずれも金五、九一六円、(5)のそれは金二、九五八円となるので、結局(4)(6)(7)の手形金額は金二〇五、九一六円、(5)のそれは金一〇二、九五八円となり、控訴人は被控訴人に対し(4)ないし(7)の手形金額計金七二〇、七〇六円及びこれに対する昭和三三年六月二一日以降完済まで年六分の法定利息を支払うべきである。

控訴人は、被控訴人が控訴人に対し適法の期間内に支払拒絶があつた旨を通知しなかつたので、そ及要件を欠きそ及義務がないと抗弁するけれども、たとえ被控訴人が支払拒絶の旨を拒絶証書作成の日に次ぐ四取引日内に裏書人である控訴人に通知しなかつたとしても、被控訴人のそ及権に影響を及ぼすことのないことは手形法第四五条の明定するところであるから、右抗弁は採用のかぎりでない。

さらに控訴人は、別記準備書面のとおり、被控訴人に対し利息制限法の制限利率を超過する利息を支払つているので、その超過部分は元本の弁済に充当さるべきであると主張するが、控訴人の弁論の全趣旨、前示証言、控訴本人尋問の結果によると、控訴人は右の利息制限法の制限を超過する利息を任意に支払つていることが明らかであり、債務者が右超過利息を任意に支払つたときは、制限を越えて支払つた金員の返還を請求することはできないので、これを元本に充当さるべきであると主張し得ないと解すべきである(昭和三七年六月一三日大法廷判決)から、右主張は採用できない。

二  被控訴人の予備的請求について。

被控訴人主張の第一次請求原因(1)(2)(3)の手形である甲第一号証ないし第三号証の手形の各振出日に、それまで被控訴人が控訴人に貸付けていた元金一〇万円の貸金の弁済期を延期して各手形の満期を弁済期とし、各手形の振出日から弁済期まで六〇日分、日歩一三銭の割合による利息金七、八〇〇円を加算して各手形の金額を金一〇七、八〇〇円としたことは、前示認定のとおりである。従つて、右一の(三)に説示と同様の理由により被控訴人が控訴人に請求し得る金員は各金一〇二、九五八円と各弁済期の翌日以降の遅延損害金というべきところ、被控訴人は昭和三三年六月二一日以降年六分の割合による損害金を請求し、原審において同日以降年五分の割合による損害金の請求を認容されたのみで、この判決に対し被控訴人からなんら不服の申立がないので、控訴人は被控訴人に対し、(1)(2)(3)の手形によつて貸付けた貸金計三〇八、八七四円及びこれに対する昭和三三年六月二一日以降完済まで年五分の割合による損害金を支払うべきである。

利息制限法の制限を超過して支払われた金員は、元本債権の弁済に充当さるべきである旨の控訴人の抗弁が採用に値しないことは、右一の(三)に判示したとおりである。

三  以上見たとおり、控訴人は被控訴人に対し手形金計金七二〇、七〇六円及びこれに対する昭和三三年六月二一日から完済まで年六分の割合による法定利息、貸金計金三〇八、八七四円及びこれに対する右同日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による損害金を支払うべく、これを越える被控訴人の請求は失当として棄却すべきである。

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